猫の鈴
 

色とりどりの提灯が並び、にぎやかな音楽の流れる夏の夜。
行き交う人々は皆浴衣姿。
「これが日本のお祭り・・・」
遠目でその様子を見ていたマオは初めての浴衣姿で目をまん丸にしていた。
「人混みは苦手なのか?」
マオは勢いよく首を横に振る。
「ううん!そんなことない!それより早く行こう!」
待ちきれないといわんばかりにカイの手を引っ張った。カイはそんなマオの無邪気さに薄く笑みを浮かべた。

「うわぁ〜、本当ににぎやかなんだね」
「にぎやかで楽しいは良いが動き回って迷子になるなよ。特にこんな場所は・・・、マオ?」
振り向いてみるといつの間にか側にいたはずのマオはいない。言ってる側からはぐれてしまったようだ。
「まったく・・・」
一人毒づいて周囲をくまなく捜すカイ。
捜すこと数分、金魚すくいの店で金魚を眺めていたマオを見つけたときにはカイの額には汗が滲んでいた。
「マオ!」
「あれ?カイどうしたの?」
「『どうしたの』じゃない!言っている側からうろちょろするな!」
しかしマオは意味が分からずきょとんとしている。カイはあまりに無邪気すぎる様子と猫のような好奇心の旺盛さにため息が漏れた。
「うん?」
ちょうど視線を切り替えたカイの眼中にあるものが飛び込んだ。険しかった表情に微かな笑みが漏れる。そう、ちょうど子どもが何か良いことを思いついたような・・・。
「どうしたの?」
「マオ、ちょっと付いてこい」

カイが足を止めたのは風鈴などの鳴り物を扱っている店だった。
他にもキレイに編み込まれた組み紐などなかなか良いものが揃っている。
「こんなのもあるんだ。珍しいものばかりだね」
「そうだな。・・・これとこれの二つを」
カイは代金を支払うと買ったものを受け取った。
一本の白と桃色と赤の三色の組み紐に小さな金の鈴。カイは鈴をマオの目の前で組み紐に通した。
「???それどうするの?・・・!か、カイ!!」
いきなりその鈴付きの組み紐を首のところに結ばれたマオはつい大きな声を上げてしまった。結び終えるとカイは満足そうにマオの首に掛かった鈴を鳴らす。
「よし。これでまた勝手に変なところに行っても鈴の音でわかる。よく似合うぞ」
「ちょっと!あたしは猫じゃないのよ!こんな鈴付けな・・・」
鈴が軽く音を立てた。それと同時にマオの唇はカイによって塞がれていた。
「か、か、か、か、カイ!!」
「文句があるなら俺の目の届く範囲にいることだ」
マオはその言葉にうっと詰まる。そして赤い顔のままそっぽを向いた。
カイはマオの手をそっと握りしめた。
「・・・いくぞ。まだ祭りは始まったばかりだ」
その言葉にマオは嬉しそうに頷き、カイに抱きついた。

小さな鈴の音が祭囃子の音にとけ込もうとはせず、澄んだ音色をたてた。


久々のカイ&マオ小説です。ああ、楽しかった〜〜〜。
こういうシチェーション大好きなんです。
調子に乗ってキスシーンまで入れてしまいました。
それでは、“再見”






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