『FRY HIGHT』
“しっかりボクに掴まって。さあ、一緒に飛ぼう!”(児童書:ピーター・パン)
「ミステル!ミステルは何処に行った!?」
スタジオの控え室、生放送番組の出演予定で用意をしていたミンミンは隣の部屋から苛立ちの含んだ声を聞いた。
「またその辺でぶらついているんじゃないですか?」
「しょうのない奴だな、まったく・・・」
(・・・いいなぁ、ミステルは)
「ミンミンちゃーん、スタンバイお願いしまーす」
「あ、はぁーい!」
いつもの決まった笑顔を浮かべて愛用のマイクを片手にカメラの前で歌う自分。歌うことは嫌いではないのだが、
(やんなっちゃうなぁ・・・)
いつも周りに人がいると言う何とも言えない窮屈感。さらに言えば、頭ごなしに言われるヴォルコフからの命令。
(あ、あの子。また来てる)
ミンミンはステージの上からいつも見かける顔を見つけた。
「あー!キミ前にもあたしのステージ来てくれたよね!今日もあたしの唄、最後まで聞いていってねー!」
にっこり笑って少年の手を握った。少年は興奮のせいか、はたまた緊張に寄るものか、全身震えていた。
こういった行動も全てはイメージアップを狙うヴォルコフの命令。
(・・・本当に、うんざり)
やっと全てを終え、自室に戻ったミンミン。
「はぁ〜〜〜〜〜、疲れた」
部屋にたどり着くなりミンミンはベッドに倒れ込んだ。
明日はざっと5以上のテレビに、3以上のラジオ番組に出演しなくてはならないのだが・・・。
ミンミンは棚の上に置かれたフランス人形を見つめた。
「・・・あなたもあたしと同じね」
人形。まるで自分はヴォルコフという名の持ち主にアイドルという肩書きを持たされた人形の様に思えた。
人形には自由はない。ただ持ち主の思いのままに動くだけ。
「・・・イヤ、もうこんなのイヤ」
−コンコン!
ミンミンは窓の外から聞こえた音に反応して窓に近寄った。でもここはビルの三十二階・・・。
「ミンミン、ここを開けてよ。ボクだよ」
「・・・ミステル?」
窓の向こうにいたのはミステルだった。ミステルはミンミンが窓を開けると鳥の様に部屋の中に着地する。
「ちょっと休ませて。今日は風が強くて飛ぶのが大変だったんだ」
「やっぱり今日も飛んでたんだ」
「風を切って飛ぶのは最高なんだよ。鳥みたいでさ、自由なんだ」
「・・・あたしも、自由になりたいな」
ミンミンは知らないうちに自分の本心をうち明けていた。彼のように自由に、何者にも縛られずにいたいと言う願いを。
「なんだ、じゃあ行こうよ!」
「え?な、なに?何するの?」
ミステルに手を掴まれてわけが分からないミンミンは呆然とするばかりだった。
「鳥みたいに空を飛びたいんだろう?」
「・・・まさか、一緒に飛ぶ、の?」
「そうさ。ほら、風も少し収まってきた。飛ぶには最高だよ。さあ・・・」
ミステルはミンミンを抱きかかえると、窓から飛び出した。
「ヤダヤダ!怖い怖い!も〜ど〜し〜て〜!」
「大丈夫だよ。見てごらん」
ミステルの言葉に顔を上げたミンミンが見たのは夜の街の煌めくネオンだった。涼しい夜風が静かに顔に吹き付ける。
「ね、来てよかっただろう?ボクのお気に入りなんだよ。この景色を見たのはボクとミンミンだけさ。・・・怖いかい?」
「・・・ううん、キレイ」
(ありがと、ミステル。・・・ミステルと一緒ならどこも怖くなんかないよ)
ミス&ミン小説でした。
管理人様のミンミンちゃんがキョウジュの手を握っているイラストが気に入ったので
本文の中にも使わせてもらいました。