瑠璃 −ラピスラズリ−

 

「・・・かっこいいよ、オズマ」
新年を迎え、成人の儀式を終えて戻ってきたオズマにマリアムは声を掛けた。
聖封士の一族の男子は大人の儀式を迎えると両耳にピアスをすることがならわしだった。
ちなみにそれは男に限ったことではなく、女性もピアスをするのだが、女性の成人の儀式は雨季の後だった。
「ラピスラズリのピアス、よく似合ってるわ」
「・・・そうか?」
マリアムはため息を吐いた。ピアスに使われる石は階級を示すものだった。
次期族長候補ナンバー1のオズマは高価な瑠璃、ラピスラズリを与えられた。しかし・・・。
マリアムは忌々しげに去年付けたばかりのピアスをいじる。
マリアムに与えられたのは色映えのしない赤瑪瑙(メノー)のピアスだった。
赤瑪瑙はマリアムの望むところではなかった。瑪瑙は階級が低い。
「あたし、もう休むわ。あんたはそのピアス、ユスフやあのゴリラにでも見せといで」

その晩
マリアムは窓辺に腰掛けたままぼんやりとしていた。さっきからため息が何度も洩れていた。理由はオズマの瑠璃のピアス。
掟では階級の低い者は高い男女とは一緒にいられなかった。
(あたしは、もうオズマとは一緒にいられない)
−コンコン、
ドアのノックする音がした。
「なーにぃ?」
「マリアム、起きていたか?」
深夜の来客はオズマだった。昼間見たラピスラズリが月明かりに煌めいている。
「なんか用?あたし、こう見えてももう大人なんだからもう昔みたいに一緒に寝られないわよ」
かなり毒のある言い方だったが、オズマは気にするでもなく、口を開いた。
「これを、受け取って欲しい」
そう言って差し出したのはあのピアスだった。
「ばっ!何言ってんのよ!あんたの成人の証拠を、あたしなんかに・・・」
「お前に、持っていて欲しいんだ」
マリアムはオズマの手のひらで煌めいているピアスを見つめた。
瑠璃、マリアムがほしがっていた石だ。マリアムは震える手でそっとピアスを手に取った。
「付けてみろ。きっとお前になら似合うはずだ」
赤瑪瑙のピアスを外すと代わりに瑠璃のピアスを付けた。瑠璃のピアスはマリアムの耳元で銀鱗の様に照り輝いた。
「よく似合っている。・・・綺麗だ」
「・・・ありがと、オズマ」
照れくさそうにマリアムがオズマの顔を見ると、オズマの耳には・・・。
「・・・あ」
「こっちの方が、似合ってるだろう?」
マリアムの赤瑪瑙のピアスが輝いていた。

「やれやれ、オズマの奴。あれほど慎重に相手を選べと言ったのに・・・。もう渡してしまうとは」

式の後、ピアスを交わすのは婚約の意思表示、と教えた長老は苦笑いを浮かべた。

 

end.


オズ&マリ小説でした。
前回に引き続き、変な物ばかり送ってすみません。
それでは、“再見”






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