指切りげんまん

 

 それは2人がまだ幼くて、何も知らなかった頃の思い出。
「お姉ちゃん、いっしょに寝ていい?」
ジュリアがベッドのシーツを整えていると、いつものようにラウルがやって来た。
こんな風に伺いを立てるのは建前だけで、
実のところラウルはケンカでもしない限り毎日ジュリアのベッドに潜り込んでいる。
「いいわよ」
ジュリアの返事を聞くと、ラウルは嬉しそうに姉の隣に横になった。
しんと静まり返った夜の空気の中で、互いにおやすみの挨拶を交わす。
 数分後、ラウルが口を開いた。
「お姉ちゃん、起きてる?」
「なに? トイレ?」
「ううん、そうじゃなくて……」
「なによ、はっきりしなさいよ」
煮え切らない様子の口調に、まどろみかけていたジュリアは苛立ち、声を荒げる。
「うん……あのね、昼間、映画見たでしょ」
今日はサーカスが休みだったので、昼間2人はロメロに連れられて映画を見に行ったのだ。
内容は、よくあるプレーンな、ハッピーエンドの恋愛もの。
2人には、まだよくわからない内容だった。
「あれがどうかしたの?」
「あのあとロメロにね、お姉ちゃんのオヨメサンになりたいって言ったら、
男の子はオヨメサンにはなれないんだよ、って言われて、
それで、じゃあお姉ちゃんにオヨメサンになってもらいたいって言ったら、
きょうだいはケッコンできないんだよって言われたんだぁ……。
好きあってる男の人と女の人は、ケッコンしてずぅっといっしょにいられるんだよね?
それじゃあ、どうしてきょうだいはケッコンできないのかなぁ」
ラウルがあんまり寂しそうに言うので、ジュリアは一生懸命考えてみたけれど、よくわからなかった。
「そんなの、私だってわかんないわよ」
「そっか……ねえ、ケッコンできないなら、僕たちずぅっといっしょにはいられないのかなぁ」
「そんなことないわよ」
「ほんと?」
「……たぶん」
自信は無かった。
自分たちはまだ子供すぎて、わからないことがありすぎて、だから確実なことなんて何ひとつ無い。
でも、少なくともジュリアは、ずっといっしょにいたいと思ってはいる。
顔を上げると、ラウルはますます寂しそうな顔になっていた。
「あのね、ラウル。私たちはきょうだいだからケッコンはできないかもしれないけど、
私はケッコンなんてできなくてもあんたとずっといっしょにいたいって思ってる。
だから、ずぅっといっしょにいますって、約束」
そう言って、ラウルの手を取り、互いの小指を絡め合わせる。
そのまま上下に数回振って、手を離した。
ラウルは不思議そうな顔でそれを見つめている。
「指切りげんまん、っていってね、こうやってした約束をやぶったら針千本飲んでゲンコツ一万発くらわなきゃいけないのよ」
「そ、そんなのこわいよ」
「いいのよ、私たち、ずぅっといっしょにいるんだから。ケッコンできなくても、ずっといっしょよ」
「……うん!」
ようやく笑ったラウルを見て、ジュリアも顔をほころばせた。

 

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「ね、ラウル……約束、覚えてる?」
「約束?」
「……何でもない」
「『結婚できなくても、ずうっといっしょ』」
「!」
「覚えてるよ」
ラウルはジュリアの手を取って、互いの小指を絡め合わせた。

 それは、まだ何も知らない幼い子供だった頃の、けれどとてもとても大切な、約束。

  


捏造ユーリ×マチルダに脳内浮気しつつもやっぱりラウジュリが大好きな今日この頃なのでした。






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