『COLORS』
果てしなく黄色のひまわり畑が続く光景をラウルは呆然と眺めていた。
「おじいちゃん!!」
「おお!ラウル、ジュリア、よく来たな」
双子の祖父、パブロ・フェルナンデスは郊外に街とは別のベイブレードの工房を持っていた。世界的にも有名なベイブレード職人のパブロ老は、騒がしい町中の工房よりも地中海に面したこのヒマワリ畑の真ん中にある工房の方がお気に入りだった。
そして夏にこの工房でゆっくりとベイブレード作りに勤しみ、時折、孫達の顔を見るのが彼の最高の楽しみだった。
今回も然り、パブロ老は大喜びで孫達を迎えた。
「ねぇねぇ、おじいちゃん!ここのヒマワリ、パパとママやロメロにもって帰ってもいい?きっと喜ぶと思うんだけど・・・」
「おお、好きなだけもっていけ。ラウルはどうする?」
えっ、とラウルは意外そうに驚いた。そしてヒマワリ畑をしばらく眺めて言った。
「ボクは・・・、絵を描くよ」
数分後、真っ白なキャンバスを前にラウルはヒマワリ畑を漠然と見ていた。祖父の影響を受けたのか、ラウルは昔から絵を描くのが好きだった。
視線の先には、地中海のマリンブルーと空のスカイブルー、そしてヒマワリの黄色が広がっている。情熱の国、スペインらしい光景だ。
でも・・・、
「(何か・・・、足りない・・・)」
鉛筆で薄く下書きしながらラウルはすぐ、その手を止めて消しゴムで線を消してしまう。
何度書いても自分の思うような絵が仕上がらない。
初めてヒマワリ畑を見て、あんなに感動して絵に描いて残したいと思ったのに・・・。
「どうして・・・、出来ないんだろう」
ラウルはため息を吐いた。
「どうした?ラウル。ため息など吐いて・・・」
「おじいちゃん」
いつの間にか後ろにいたパブロ老がラウルのキャンバスをのぞき込んだ。
「珍しいのう。お前のキャンバスがまだ真っ白なんて・・・」
「うん・・・。なかなか、思うような絵が描けないんだ。どうしてかな・・・?」
パブロ老はまだ地面に置いたままのラウルの絵の具を持ち上げる。
「ラウル、付いて来なさい。ここは絵を描くのには向かん」
ラウルはあたふたとキャンバスを持つと祖父の後に従った。
パブロ老の案内した場所は少し小高い丘の上だった。
ラウルはさっきよりも光景の視野が広がったのを感じた。
「(なるほど・・・、ここなら視野が広くていいかも)」
「ラウルー!」
声がした方を向くと、真っ白なワンピースにヒマワリを片手いっぱいに抱えたジュリアがいた。
「お、お姉ちゃん!!」
「見て見て!!これ!キレイでしょ。パパとママとロメロの分、これくらいでいいかしら?」
そう言ってラウルの前に差し出した花の数はかなりの量だった。普通ならそれくらいで良い程の量だったが・・・。
「・・・もう少し、摘んどいた方が良いんじゃないかな?」
「あら、そう?じゃあ、もう少し綺麗なやつ選んでくるわね!」
ジュリアは笑顔でヒマワリ畑を駆けだしていった。
「(そうだったんだ・・・)」
ラウルは一人納得すると、キャンバスにものすごい勢いで描き始めた。
一週間後
パブロ老は街に帰る仕度を始めていた。孫達は一足先に街に戻ってしまっていたが、彼にはする事が多くあった。
「おや?」
パブロ老は部屋の隅に置かれたキャンバスに気がついた。キャンバスの裏には一週間前の日付が記されている。ラウルがあの時描いていた絵だ。
「おお、これは・・・」
絵を見たパブロ老は思わず感嘆の声を漏らした。
そこに描かれていたのは生き生きとした表情でヒマワリ畑の中で笑っているジュリアの姿だった。それもヒマワリの鮮やかな色彩のおかげで、まるで生きている様である。
「なるほど・・・、ラウルはこれを描きたいと思っておったのか」
そう、ラウルはこのヒマワリ畑を見て大好きな姉に似合いそうな光景だ、と無意識のうちに感じたのだ。だから何度も納得がいかなかった。
そして、ジュリアを描くことによって、ラウルが求めていた光景がやっと完成したのだ。
翌日、街に帰ったパブロ老はこの絵をコンクールに出展した。
ジュリアの鮮明な笑顔はそこでも輝き、人々の心を魅了した。
もうすぐ七月なので、バカンスネタでラウ&ジュリ小説書いてみました。
双子の祖父パブロ老人はコミックスで登場しています。
コミックス読んでいない方、ごめんなさい。
それでは、“再見”